「裏庭へ抜ける扉が、一階の廊下にあるんです。そこから外に出て、話しましょう」
「その言い方。すっかり穂波は、氷宮家の人って感じだ。なんだか寂しいな」

 しょんぼりとした子犬のような表情をする時隆を見て、穂波はこの人はどの立場で言ってるんだと思った。

「そういう時隆様も、今じゃ鷹泉の人ですよね」
「うん。鷹泉家の人たちはみんな優しいししっかりしてるし、住んでて気持ちが良い。俺、この家の子になれて良かったなあ」
「……」
「あ、路夜くんだけ違うかな。彼って本当に不真面目だよね」

 呆れた眼差しを向ける穂波の視線をひらりとかわし、路夜の話をし始めた。穂波も警察署内でも煙草を吸うなど、自由に振る舞う路夜の姿を見たが……鷹泉の家でも変わらぬ様子らしい。





 屋敷内に居た、氷宮や鷹泉の人間たちに姿を見られることもなく、なんとか穂波は時隆を外に連れ出した。

 手入れの施された屋敷裏の庭には、紫陽花が広がっていた。四片祭の名前の由来にもなっている花だ。紫、青、桃、白の、水彩絵の具をぼんやりと広げたような景色。葉には先日降った雨の粒がつるりと光っている。

「すっかり梅雨の季節だね。俺が死んでからもう二ヶ月以上経つのか」

 紫陽花の花弁に指を添えながら、早いもんだと時隆は自分の死を、天気予報の話しでもするような軽々とした口調で語る。

「この前は、序列の意味の話で終わっていたっけ」
「はい」