椿と話した後は、身体の不調だった部分もほぐれて、穏やかな気持ちで休むことができた。

 翌朝になると部屋の外から聞こえてくる、足音や人の声で目を覚ました。

 身なりを整えると部屋の外に出て、階段の踊り場から、一階の方をこっそりと覗いて見た。また鷹泉の人間たちが来て、四片祭の警備について話し合いをしているようだ。

「あ」

 穂波が視線をやった方に、眼鏡をかけた黒髪の男性が立っていた。目が合うと男はにやりと悪戯げに笑い、階段を昇って穂波の方へ近づいてきた。

「よう、椿の気に入りちゃん」
「あなたは……」
「鷹泉路夜だ。覚えてるか?」

 もちろん覚えている。椿の学校時代からの友人で、鷹泉の人間だ。穂波が誤認逮捕された時、椿と一緒に助けてくれた。

「そ、その節はお世話になりました!」
「俺は上司の不正を、正しただけだ」

 ここに居るということは、路夜も四片祭に向けた話し合いに参加しているのだろうか。

「聞いたぜ、椿に嫁ぐことにしたとは驚いた。藤堂から氷宮の当主に嫁ぐ奴なんて歴代初めてじゃねえのか」

 すげぇな、この前まであんな薄汚れた留置所に居たとは思えねえと、路夜は穂波の顔をじろりと見る。

 不思議と路夜だからか、じっくり品定めするように見られても不快な気持ちにはならなかった。彼が恩人であり、椿の友人でもあるという信頼があるからだろう。