椿の言葉に、ぐっと胸の奥が詰まるように苦しくなる。自分が念力にかかっている。それは穂波が考えもしなかった……否、自然と避けようとしていた考えだった。

 全く予感しなかったわけではない。しかし、〝とある理由〟からその考えを受け入れたくなかったのだ。

「様々な念力があるんだ。記憶を操る念力の使い手も存在するだろう。藤堂一族の中に心当たりはないか?」
「心当たりは……」

 一人だけ、脳裏に浮かんだ人物が居た。穂波の些細な表情の変化でも、椿は気づく。心当たりがあるのだろうと思った。

「少し考えさせてください。本当にそうだと確信できたら、椿さんに必ず相談します」

 再会した時よりも、穂波は随分と変わった。前の穂波なら、ここで言葉を濁すだけだったかもしれない。自分で決断するようになった。

「わかった。穂波さんが話してくれる時まで待ってる。でも不安なこと、困ったことがあったらいつでも頼ってくれ。俺は穂波さんの婚約者で、ここは穂波さんの家なのだから」

 いつも椿のかけてくれる言葉は、あたたかく流れ込んできて、心の端っこの冷めた部分や空洞を埋めてくれる。穂波は力強く、その言葉に頷いたのだった。