花森の言葉に、ますます穂波はわからなくなっていた。

(どうして覚えていないんだろう。こんな大切なこと)

 椿のことを思い出そうすると、頭が、奥から突き上げてくるような痛みに襲われる。

「穂波様! 大丈夫ですか?」
「すみません、思い出そうとしたら頭が痛くなってしまって」

 花森は怪訝そうに一瞬、顔を曇らせたが、すぐにいつも通りの笑みをつくって穂波に寄り添った。

「今日はもう休まれた方が良いでしょう。お部屋に戻ってください」
「はい……そうさせていただきます」

 穂波が自分の部屋に戻って、その扉が閉まるのを花森は見届けると、小さく呟いた。

「……何らかの念力なのか?」

 穂波の記憶は、何かの念力によって奪われてしまっているのではないか。そんな予感が花森の中で強くなり始めていた。