穂波の問いかけに花森が、六月に帝都で行われるお祭りですと説明した。

「四片は、紫陽花(あじさい)の別名でございます。高貴な色とされ、古来より王室が大切にしてきた色である紫。その紫の花が咲く月に、帝都で祭りごとをしようと、ここ数十年前から始まったのが四片祭でございます」

 長い時を生きてきた花森は、祭りが始まった当時のことも知っているのだろう。声色から、よく知っている物について話すような落ち着きを感じる。

「お祭りの名前は聞いたことがありましたが、紫陽花をさしていたのですね。知りませんでした」
「ええ。あともう一つ意味がございます。この国を支える三大名家と王室。四片は、その四家のことをさしてもいるのです」

 四枚の花びらの花は珍しいですからと花森に言われ、確かに言われてみると紫陽花は珍しい花なのかと穂波は思った。




『穂波。四片祭というのはね……』




 そしてなぜか頭の奥で、母の声が聞こえてきた。

 四片祭のこともその意味も、たった今、花森に教えてもらうまで知らなかったはずなのに。

(昔、お母さんに祭りについて教えてもらったことなんてあったっけ)

 ばちばちと火花を飛ばす、線香花火のように。薄暗い街中に、橙色の提灯と屋台が並ぶ光景が頭の中を走る。

(私……何か大切なことを忘れている?)