最強さんは魔術少女を溺愛したい。④ ~三大勢力の溺愛は急上昇超加速~

 今だって理事長に向けてだと思われる、対抗意識を含んだ言葉を呟いている。

 こういう時、私は何て返したらいいんだろう……。

 語彙力や理解力が乏しいのは自覚しているからこそ、そう悩んでしまう。

 何かを言ったほうが良いのは分かってるけど、一体どう返せば……。

「疾風、様子おかしいよ。どうしてそんな喧嘩腰なの?」

 頭を自分なりに捻らせて悩んでいると、私の気持ちを代弁してくれたように明李君が疾風君に尋ねてくれた。

 明李君も意味が分かっていないという、悩んでいる表情を浮かべている。

 わ、私も気になるっ……!

 そんな事口には出さなかったけど、期待した目で疾風君の事を見つめる。

 だけど私のその視線に気付いた疾風君は、ほんの一瞬だけ動きを止めてしまった。

 ん?どうしたんだろう?

 ほんのり頬も赤くなっている気がするし、何で私から視線を逸らすんだろう……?

 も、もしかして私、嫌われてるっ……!?

 そう思って少し悲しくなったけど、疾風君はすぐに視線を戻して口を開いた。
「そうか?まぁ俺は、もう容赦しないって栞に言ったから。な?そうだろ?」

「う、うんっ。さっき言ってたよねっ。」

 何の事かは分からないけど、容赦しないって言われた事は覚えている。

 そんな私の言葉を聞いた明李君は、急に顔を青ざめさせた。

「ほ、本当に言ってるのっ!?」

「もちろん。もう俺は……遠慮しないって決めたんだ。」

「それ、新さんの気持ち考えて言えることなのっ!?」

「それをお前が言うか。」

 な、何だろう、この状況……。

 明李君はさっきの言葉を口に出したと同時に私の事を抱きしめる力を強め、若干息が苦しい。

 そんな中、明李君と疾風君が謎の言い合いをしていて、ますます頭の中が混乱してきた。

 何がどうなってこうなってるのっ……!?

「二人とも~、しーちゃんが困ってるからこんなところで言い合いはやめようね~。」

 はてなマークで頭がいっぱいになり、キャパオーバーになりかけていた私の耳にそんな言葉が届いた。

 その和向君の一言で二人とも分かってくれたらしく、言い合いをやめてくれた。
 私もなんとか明李君の腕の中から解放され、無意識のうちに息を吐く。

 それでも明李君は納得がいっていないのか、ぷくーっと可愛らしく頬を膨らませていた。

 うーん、何がそんなに嫌なんだろう……?

 だけど私は明李君の気持ちを鎮めるために、よしよしと明李君の頭を撫でた。

「栞~、ありがとっ……!」

 私のよしよしで機嫌が直ったのか、明李君は膨れっ面から笑顔に戻った。

 うん、やっぱり明李君は弟みたいだ……。

 流石に本人に面と向かって言わないけど、そんな思いを私は抱えていた。
『神菜っ!』

『ありがとう、神菜っ!』

 この前、偶然で来栖がそう言っていた場面にばったり出会ってしまった。

 しかもその相手が……栞。

 盗み聞きは人間性としてどうかとも思ったけど、俺は天使族だから別に関係ないか。

 それよりも大事な事は、その神菜発言問題。

 この学園でその名前を耳にするのは、少なからずあったから不思議ではない。名前自体なら。

 だけどそれが人を呼ぶって事になるのなら、話は全然違うものに変わる。

 来栖は元宮神菜以外に興味がなく、噂まであったほどだから間違いではない。

 ――柊木栞はきっと、元宮神菜だってことが。

 確定だと分かり切ってはいるけど、もう少し探る必要はある。

 だから俺は栞に……ある罠を仕掛けることにした。



 でも、月曜日にその罠を実行することはできなかった。

 理由は、栞が風邪をひいてしまって休んだから。

 その日の生徒会室の雰囲気は何とも言えないようなもので、特に創と都真がイラついていた。

 創は態度から分かる通り、栞のことが好きだからだと思っている。
 ……それも、過度なほどに。

 都真も栞に好意を寄せているから、根本的な理由は一緒。

 まだ都真のほうがましだって思ったほうが良い。

 だけど……夕弥たちの態度まで変わるのは意外だったかも。

 夕弥は前に栞を抱きしめたって、俺に教えてくれた。

 理由は「栞は癒されるから。」らしい。

 まぁ……夕弥の言い分も分からないことはない。

 栞はふわふわした雰囲気を纏っていて掴めない印象があるけど、心が綺麗だから癒しにはなる。

 ……恋愛対象になるかって言われたら、悩んじゃうけど。

 世妖もいつもは仕事をしたらさっさと眠ってしまうのに、その日だけは珍しくずっと起きていた。

 いつも栞に抱き着いていた時間をぼんやりとして過ごし、時折こんな言葉も零していた。

「栞……早く元気にならないかな。」

 それには流石の俺でも驚きを隠せず、ふっと笑ってしまった。

 世妖は半妖と言う事もあって、半分は人間の血が流れている。

 もう片方がどの種族かは分からないけど、そのせいで世妖は人と関わらなくなった時期が一時期あった。
 多分、この学園で一番栞に近いのは世妖だと思う。

 世妖も栞にはそのおかげで懐いてるんだと思うし、本能とでも言っておけばいい。

 それでもあそこまで他人の事を考えるなんて、びっくりだけど。

 ……だけど俺も、人のこと言えないかも。

 俺だって多少なりとも栞のことを考えてしまっているし、興味が日に日に沸いている。

 だから……栞の化けの皮を、剥がす必要があるって思ったんだ。



 翌日になり俺は、さっそく栞に向けての罠を仕掛けておいた。

 それは、この学園中の邪気を一か所に集める事。

 本当に栞が元宮神菜ならこの大量の邪気に気付くはずだし、魔術を使えばもう確定。

 俺はあんまり邪気の扱いが上手いわけじゃないから、邪気を集めるのにも一苦労。

 それでも元宮神菜に会える希望があるなら、この苦労も苦じゃない。

 元宮神菜はいろんな種族から引っ張りだこだけど、それは俺たちの天界族でも同じ。

 だから一刻も早く、元宮神菜を引き入れる必要がある。

 でも、この罠を実行したのは授業真っただ中の時間。
 休み時間や放課後だと、誰かしらと鉢合わせる可能性があったから。

 だけどここでどうしても、栞を動かしたい。

 そう考えた時、頭の中にある考えが降って来た。

 ……理事長を少し、利用させてもらおう。

 俺の能力を使えば変声くらいいくらでもできるし、自然な流れになるはず。

 理事長と栞には申し訳ないけど、これも栞の正体を明かすため。

 だから少しの間だけ、利用されててね。



「確定、だね。」

 しばらく物陰で待っていると思っていた通り、栞が空き教室へと入っていった。

 その後すぐに魔力が使われた形跡を察し、自分の予想が外れていなかった事を確認する。

 本当に神菜かどうかは分からないけど、栞が魔力を持っているのはこれで確定した。

 ……こんな近くに、とんでもない人がいたとはね。

 この国での魔術師は元宮神菜しかいないから、栞は元宮神菜だと断言しても良いはず。

 まぁ……心配だからカマかけてみようかな。

 栞は抜けているところがあるから、俺のはったりにもすぐに引っかかってくれるだろう。
 あんな鈍感純粋っ子にカマをかけるのは少しだけ気が引けるけど、今に始まったことじゃないから別に良いか。

 俺は一人でそんなあくどい事を考え付き、栞と元宮神菜のことについて考えていた。



 放課後になり、生徒会へと足を進める。

 今日は早く終わったから、もしかしたらまだ誰も来てないかもなぁ……。

 夕弥は今日は用事があるって言って学校に来てないし、世妖も少ししてから生徒会室に来る。

 だから大体一番乗りは、いつも俺だったりする。

 生徒会室は北棟に合って、教室からはあんまり遠いわけじゃない。

 その時に、目の前に興味深い奴の姿を捉えた。

「神々、少し僕と話してよ。」

「……お前と話すことなんてない。」

 だけど神々は俺の言葉にそんな冷たい返しをして、さっさと歩いていこうとする。

 やっぱり栞以外は眼中にないってことか……。

 だったら神々にも、仕掛けてあげればいいんだ。

「僕ね、栞のこと気になっちゃってるんだ。」

「……何?」

 おぉ、結構簡単に食いついた。
 神々は栞のことを溺愛してるから、こんなに簡単に食いつくんだね。

 昔はもうちょっと威厳あったのになぁ……。

 ぼんやり考えながら、俺は意味深な笑みで笑い飛ばすように微笑んだ。

「言葉通りの意味だよ。うかうかしてると他の奴に取られちゃうかもね、栞のこと。」

 あえて元宮神菜の話題は出さない。

 そんな話して、栞を連れ帰されてしまっても困るから。

 これから俺は、栞の正体を暴きに行くのに。

「……怒らないんだね、神々。」

 でも俺は、神々の態度に驚いてしまった。

 感情を表に出していないけど、怒っていない事だけは分かった。

 普通、宣戦布告されたら怒ったりするのが当たり前だと思うのに。

 俺が皮肉気味にそう呟くと、神々は短く返事をした。

「あぁ。俺が俺が怒ったって、事態は何も変わらないからな。」

「そういうところだけは弁えてるんだね。」

 神々、独占欲の強い男だって聞いてたけど、意外にも常識は備わっているんだね。

 ……だけどこれにも怒らないって、どういう事かな。