最強さんは魔術少女を溺愛したい。④ ~三大勢力の溺愛は急上昇超加速~

 好かれてるっていう事自体は良いけど、過度なのも危険だと思う。

 ……それだけおりちゃんの人柄が良いって事なんだろうけど。

「おりちゃんは好きな人いないの?」

「……いませんよ。」

 これだけ好意を向けられてるなら、誰かを好きになってると思ったけど……いないか。

 さっきの不自然な間は、何を指してるのか。

 好きな人がいないって断言できない。誰かに心が動き始めてる。

 ……誰かって言うのは、大体予想つくけどね。

「恋愛って、どうなんだろう……。」

 その時、おりちゃんが不意にそう呟いた。

 小さな声だったけどはっきり聞こえて、俺も悩んでしまう。

「恋愛ねぇ……まぁ、難しいとは思うよ。」

 恋愛って形がないから、何をするのにも難しい事なのは分かる。

 でも恋愛って、好きになった人を好きになるって事……だよね。

「難しいけど……好きだって思ったらその人に恋してるって事だろうね。」

「それって……?」

 当たり前の事をつい零してしまい、やっちゃったなと後悔する。
 おりちゃんが聞きたいのはきっと、こんな回答じゃない。

 ……だけど恋愛はやっぱり、こういう事なんじゃないかな?

「恋愛なんて感情……つまり気持ちだから、はっきりは言えない。だから答えなんて、もしかしたらないのかもね。」

「成生さんってもしかして、前世の記憶とかあるんですか?」

 率直な感想を告げると、おりちゃんは真剣そうに尋ねてきた。

 前世の記憶?うーん、ないけどなぁ……よく言われるけど。

「よくそう言われるけど、全然そんなことないよ。前世の記憶は全くないって言ったらいいのかな。」

『成生って人生経験何回目なの?言葉に年季が入ってるんだけど。』

 たまに風羽とかから言われるけど、前世の記憶はない。

 どうしてそう言われるんだろうね……不思議。

「そろそろホームルーム始まるから教室戻ろっか。おりちゃん。」

「は、はいっ……。」

 おもむろに時計に視線を移してみると、もうそろそろ戻ったほうが良い時間を指していた。

 おりちゃんをちゃんと送り届けなきゃ、神々にバレでもしたら殺されそう。
 そんな事を思いながら、おりちゃんと二人でカフェを後にした。



 今日、おりちゃんと話してみて良かったかもしれない。

 カウンセリングみたいになっちゃったけど、おりちゃんも楽しんでくれてるようだったから良かった。

 それにしてもおりちゃんって不思議が多い子。

 編入の事も風羽の事も、何も真相は分かっていない。

 それなのにたくさんの人を引き寄せるのは、おりちゃんの性質かも。

 でもおりちゃんが気になってる人は、きっとあの人だろうね。

 おりちゃんの一番近くにいて、おりちゃんを一番想っているだろう人物。

 神々新。

 ……やっぱり人の恋模様を見るのは、楽しいものだね。

 自分って結構性格が悪いのかな、と思いながらもふっと微笑みを洩らした。
 風羽さんにお願いしてから、もう数日が経った。

 私のほうでも魔力はかけているから、酷い事にはなってないけど……周りに影響が出始めていた。

 そのせいで今日一日、疾風君たちがげんなりとしていた。

 和向君も明李君も気分が優れないらしく、しんどそうにしているのがすぐに分かった。

「どんな感じ?」

 そう聞いてみたけど、返って来たのはこんな言葉。

「何とも言えないだるさがあるんだよな。まるで、対人外用の魔力かけられてるみたいな感じだ。」

 和向君も明李君も疾風君と同じような事を言っていて、余計に悩んでしまった。

 対人外用の魔力は、ないわけではない。

 でも学園内で弱体化系の能力を使うのは、禁止だったはずだよね……。

 魔族と人外の秩序を守るためにそういう系の能力はダメだと、校則にも記されている。

 なのにこんな事が起きているのは、違和感しかなかった。

 風羽さんも私がお願いしたからか、人目を気にしながらも現状を教えてくれた。

「僕はまだ大丈夫だけど、咲空や成生たちが酷いんだ。体調が悪くなってるのは、今はZenith幹部だけだけど……。」
 Zenith幹部だけ……。

 どうしてもその言葉が引っかかっていて、ずっと考えこんでいる。

 それに生徒会でも、天さんや夕弥さんが体調が悪そうだった。

 だから絶対、何かがあると思うんだけど……手掛かりさえ掴めていない。

「うーん……どういう事なんだろう……。」

 今日は新さんに早めに帰ってもらって、今自分の部屋で文献を必死に漁っている。

 過去のものから最新のものまでに目を通したけど、やっぱり何も分からない。

 ……ずっと文字を追っていたから、目が痛くなってきた。

「ふぅ……ちょっと休もうかな。」

 そう考えて椅子から立ち上がり、キッチンへと向かおうと部屋の扉に手をかける。

 流石に三時間ぶっ通しで座ってたら、体が痛いかも……。

 ぼんやりとしている頭でそんな事を思いながら、体を簡単にほぐす。

 だけどそのタイミングで、スマホが通知を知らせている事に気付いた。

 ん……?この時間に、一体誰だろう……?

 不思議に捉えながらスマホを手に取り、液晶画面に映ったものを確認する。
 ……もう、来ちゃったんだ。

 その内容は驚くものだったけど、私には当たり前だと思っていたような事だった。

《元宮神菜殿

 近頃、月魔城学園での任務が滞っているそうではないか。

 このままだと、月魔城学園からの退学や政府との契約を切る事も視野に入れている。

 また、学園内での“暴走”や不祥事もだ。

 正体がバレても、同様の措置を取る。

 くれぐれも、正体がバレるような真似はしないように。

 政府》

 こんなお知らせが来る事自体は、ずっと前から予想していた。

 最近は任務はちゃんと遂行しているけど、問題が増え過ぎていた。

 だから……月魔城学園を去る事も、考えておかなきゃならないのかな。

 きっと、昔の私なら何の躊躇もなく割り切っていたと思う。

 お仕事だから、それが私の価値だから……受け入れなくちゃいけないって。

 契約が切れちゃったら、生きていけないけど。

 ……だけどそんなの、嫌。

 私は数年前から完全に、政府の籠の中にいる。

 だからその決められた運命に抗うなんて……そんな無謀な事したくない。
 それでも……月魔城学園から退学なんて、絶対に嫌だ。

 そう思った時、不意に新さんが頭の中に浮かんできた。

 どうして今浮かんできたのかは分からないけど、新さんと離れることになったら……。

 嫌な考えが脳裏をよぎり、慌てて首を横に振る。

 ううん、今から考えたって仕方がない。まだ決まったわけじゃないから。

 私はそう思うことで自分を丸め込んで、スマホの電源を落とした。



 だけどやっぱり、翌日も体調不良者は後を絶たなかった。

 AnarchyもZenithも生徒会も……完全に影響が出始めていた。

 今までは幹部だけだったらしいけど、徐々に一般生徒にも影響が出ている。

 私が魔力をかけているから被害は小さいけど、いつ決壊するか分からない。

 だから早く、原因を突き止めなきゃいけない。

 ……なのに何故か、一向に原因が分かっていない。

 政府にもこの話は一回通してみたけど、前例はないと言われてしまった。

 私も初めての事だから、右往左往と悩んでしまっている。
 ……これじゃあ本当に、誰からも見放される。

「神菜、最近疲れているようだが……大丈夫なのか?」

「そうですか……?大丈夫だと、思いますけど……。」

 嫌な方向に考えが進んだ直後、新さんから声をかけられた。

 そうだった……今は帰宅途中なんだっけ……。

 どれだけ考え込んだんだろうと思いながら、乾いた笑みで返答する。

 こんな事考えてたってバレたら、新さんからも見放されちゃうのかな。

 そう思いながらも私は、自然とこう口に出していた。

「新さんは、私が魔術師として大きな不祥事を起こしたら……どう思いますか?」

 相当疲れ切っているのか、その質問が良いのか悪いのかなんて分かるはずがない。

 後から後悔しそうだな……とは思ったけど、本当にそうなったらどう思うのかな。

 もしかしたら近い未来に大きな揉め事や不祥事を起こしてしまうかもしれない私に、新さんはどう接してくれるのかな。

「神菜……。」

 だけど新さんは答えてくれなくて、私の名前を呟いただけ。

 ……あはは、やっぱり変な事聞くんじゃなかったかも。
 きっと新さんも、面倒な奴だって思っただろうな。

 完全に疲れ切っているのか、私はもう半ば諦めモードでその場から離れようとした。

 これ以上新さんといても、また変な事口走っちゃいそうだし。

「新さん、また明日――」

「ダメだ。勝手に帰るな。」

 挨拶をして帰ろうと一人で帰ろうとしたのに、新さんに腕を掴まれ阻止されてしまった。

 こ、こうなっちゃうよね……分かってたけど……。

 新さんのことだから、一人では帰らせてくれないだろうなと分かっていたけど……過保護だなぁとつくづく思ってしまう。

 だけど新さんに大事に思われてるって感じられるから、嫌じゃない。

 むしろ、もっと――。

「っ!?」

 そう考えた時、前触れもなくスマホがバイブレーションしだした。

 な、何っ……!?

 新さんも不思議そうに眉をひそめていて、私の腕を一旦解放してくれた。

 慌ててスマホを手に取り、ロックを解除して中を確認する。

「……え?」

 これって、まさか……。

 それと同時に、一気に体の力が抜ける感覚に陥ってしまった。