最強さんは魔術少女を溺愛したい。④ ~三大勢力の溺愛は急上昇超加速~

 サーブをしたり、パスを回したり……チームに貢献できる事はできるだけしている。

 ふぅ……これくらいしか、私にはできないけど……。

 そしてまた、私にボールが回ってきてスパイクを打とうとジャンプした。

 でもその瞬間、足にとてつもない痛みが走ってスパイクが打てなくなる。

 ……っ!?

 きっとこの前捻挫した時の怪我が完治していないものだと思うけど、さっきまでは大丈夫だった。

 急に、どうして……。

 幸い倒れこまずに済んだけど、ズキズキと足は痛んでいる。

 その間にも三年生に点を取られてしまい、私たちは負けてしまった。

 試合が終わった後、一旦待機場所に戻って同じチームの女の子たちに勢い良く頭を下げる。

「みんな、ごめんなさいっ……!足を、引っ張っちゃってっ……!」

 足の痛みもあるせいで、後半はほとんど足手まといだったと思う。

 女の子たちに顔向けできなくて、ぎゅっと瞳を閉じる。

 だけど……私の耳に届いた言葉は、予想外のものだった。

「ううんっ!全然大丈夫っ!むしろあたしたちが柊木さんの足を引っ張ってたっていうか……。」
「そうそう!ここまで来れたのは柊木さんのおかげなんだから、気にしないで!」

「あたしたちは優勝とか狙ってなかったし、柊木さんと出席できて良かったよっ!」

 女の子たちは口々にそう言って、にっこりと笑顔を浮かべてくれる。

 その様子に、思わず胸の辺りがジーンとなってしまった。

 編入した時と比べると、私も大分皆さんと仲良くなれていると思う。

 最近は少しずつだけど、女の子たちと話す事も増えたからすっごく幸せ。

 でもまた、足が痛み始めて顔を歪めてしまう。

 こ、これ……保健室に行ったほうが良いかな。

 さっきの比にならないくらいの痛さで、涙も滲みかける。

 だけどこれくらいで音をあげちゃダメだと思い、慌てて笑顔を取り繕った。

「み、みんな……私、そろそろ本部に戻らなきゃいけないから……。」

 私はみんなにそう言って、急いで踵を返して本部へと向かう。

 これくらい、私には平気……。

 半ば自分自身に言い聞かせるように心の中で唱え、一旦その場で深呼吸する。

 でもやっぱり、それだけじゃ変わらなくて大きなため息を零してしまった。
 どうしよう……とりあえず魔術かけておかなきゃ。

 そう思って呪文を唱えようと、体育館から足早に出る。

 ……これ、魔力使いすぎたかも。

 治癒魔術をかけた後、体のだるさがさっきより増し、そんな思いが脳裏をよぎる。

 めまいも寒気も……軽いものだけどしてきてしまった。

 きっと魔力を使いすぎたことによる、魔力風邪だと思うけど……いつもより酷い。

 おそらく体育館中に魔術をかけたままだから、それも影響してきているんだと思う。

 でもここで休むわけにも、帰るわけにもいかない。

 もしかしたら後から風邪症状が来ちゃうかもだけど、球技大会だから最後まで楽しみたい。

 自分勝手で私のエゴだけど……これだけは譲りたく、ない。

 私は全身に奮い立たせるように手で頬を叩いてから、体調不良を誰にも悟られないように頑張って口角を上げた。
 決勝の結果、優勝したのは男女共に三年生だった。

 三年生さんたちは嬉しがっていて、胴上げをしている人たちもいた。

 だけどそれとは裏腹に、一年生や二年生はしょぼんとしてしまっていた。

 ううっ、本当にごめんなさいっ……。

 私の変なミスのせいで、優勝を逃してしまうなんて格好が悪い。

 でもこの事は、必然なんだそう。

 天さんに尋ねてみたところ、毎年大体三年生が優勝を掴んでいるらしい。

 だから下剋上も見ものだけど、この結果になるのは分かり切っていたと教えてもらった。

 ま、まぁ確かに、三年生に勝ったら凄い事なのかもしれないけど……あはは。

 だけど私にとって、この球技大会はかけがえのない思い出になるに違いない。

 それに今から始まる……Anarchy VS Zenithの対決も、楽しみなんだ。

「それでは今から、球技大会の大トリになるこの学園の二大組織、AnarchyとZenithによるドッジボール対決を開催いたしますっ!」

 放送委員の人もよっぽど楽しみにしているのか、声がこれでもかってくらい弾んでいる。
 観戦席は言わずもがな盛り上がっていて、今日一番の盛り上がりなんじゃないかと思う。

 これまでとは比べ物にならないくらい、凄い熱気……。

 歓声も倍以上の数聞こえてきていて、ほとんどが新さんと風羽さんに向けてのものだった。

「今年神々様が出るって噂だと思ってたけど、本当だったなんて……もう感激っ!」

「それを言うなら風羽様もでしょ!対決なんて、あたしたちからしたらご褒美なんだけど~!」

 歓喜の声だと思われるものもちらほらと聞こえてきている。

 それと同時に、大きなコート内にAnarchyとZenithの皆さんが出揃った。

 こ、コート広すぎじゃ……。

 今までは二面で体育館を半分にして使っていたけど、今回は完全に一面。

 そのせいで物凄く広くなっていて、何をするにも大変そうだった。

 半分より左側にいる人がAnarchyの皆さんで、右側がZenithの皆さんという構成になっている。

 十二対十二だから知らない人も結構いたけど、新さんたちみたいな顔見知りを見つけるのは簡単だった。
 それに皆さん、顔が良すぎるからってのもあるけど……。

 だけど、AnarchyとZenithの間に流れている空気が全然違う。

 新さんたちは余裕そうな、少し楽しんでいるような雰囲気を感じられる。

 でも風羽さんたちの空気は極度の緊張と緊迫感が詰まっているように感じられて、こっちにまで伝染してきそう。

 そんなドキドキの雰囲気の中、遂に……。

 ――試合が開始された。



 まず最初のジャンピングボール。

 あそこでボールが最初はZenith側に回り、咲空さんが一気に三人も落としてしまった。

 全員知らない人だったからどんな感情を抱けばいいのか分からないけど、当てられた場所を痛そうにさすっていたから少しだけ可哀想だと思ってしまった。

 そのおかげと言っていいのか、今度はAnarchy側にボールが来て疾風君が相手を二人も落とした。

 それに勢いが尋常じゃないもので、ボールは壁に大きな音を立てて当たってしまっている。

 思わず肩をビクッと震わせ、ぎゅっと体操服の袖を掴んだ。
 だけど天さんたちや他の生徒さん、先生方は平気な顔をしていて驚いてしまう。

 わ、私だけかな……こんなに驚いてるの……。

 そう思うと急に自分が弱く見えてしまい、再びコートに視線を向けた。

 でもその時、私は更に驚くことになってしまった。

 ……え?

「新さんたちだけ……?」

 思わず目を見開いて驚いたのは、コート内の人数が大きく減っていたから。

 コート内にいる人も私の知っている人ばかりで、AnarchyとZenith幹部の皆さんだった。

 い、いつの間に……!?

 私が視線を外したのは数秒だったのに、それだけでもうこれだけ減っている。

 誰がしたのかは分からないけど、ぽかんとしてしまった。

 だけどそうやって驚いている間にもボールは空を飛び交い、接戦へと突入する。

 成生さんにボールが回って、軽いタッチでボールが投げられる。

 成生さんはその間でもファンサを忘れず、女の子たちはメロメロ状態。
「わっ……ううっ、やっちゃったぁ……。」

 その時、明李君のそんな声が聞こえて急いで視線を動かす。

 見てみると、明李君にボールが当たっちゃったみたいで明李君は申し訳なさそうにしていた。

 あ、明李君……当たっちゃったんだ……。

 確かにさっきの成生さんのボール、コントロールが凄く上手かったから避けるのが難しかったのかも。

 だけどここまで残れていたこと自体が凄いから、心の中で明李君に拍手をした。

 でもこれで、AnarchyとZenithが同じ人数になっちゃった……。

 四人ずつがコートに残っていて、一騎打ち状態になりかける。

 その最中、観戦席からは絶え間ない声援が聞こえてきていた。

「Anarchy、本当に最高なんだけどっ!」

「分かる~!Zenithもいいけど、やっぱりAnarchyだよね~!」

 ちらほらそんな声が聞こえていて、心の中で何とも言えない気持ちが渦巻く。

 ほ、本当にアイドル扱い……。皆さん、こんなに人気だったんだ……。

 “推し”と言う単語が聞こえてきたり、派閥争いが行われているような声も上がっている。
「やっぱりAnarchyだろ!?今年も絶対そうだって!」

「いーや!裏をかいてZenithだ!今年はZenithに賭けるって決めたし!」

 ……賭け?

 観戦席からそんな不穏な単語が不意に聞こえ、うーんと考え込む。

 もしかして、この球技大会で賭け事をしている人がいるかもしれない。

 私の考えすぎかもしれないけど、そう考えると不安の気持ちが心の中に生まれた。

 ……一応、抑制魔術をかけておこう。

 生徒さんたちには申し訳ないけど、変な揉め事が起こる前に対処をしなきゃ守護の意味がない。

 私は一旦本部席から離れ、人気の少ない体育館の隅で抑制魔術をかけた。

 ……これで、収まってくれるといいんだけど。

 抑制魔術は名前の通り、いろんな物や事を抑え込むことができる。

 球技大会で盛り上がりを邪魔したくなかったから薄めにかけてるけど、これでトラブルは起こらないはず。

「……ったぁ、小鳥遊本気でしすぎ。」

「明李の落とし前、付けてもらっただけだが?」

 魔術をかけ終えたその拍子に、コートからそんな声が飛んできて顔をコートのほうに向ける。