「充希くん、よかったの?季里ちゃんと颯真のこと簡単に行かせちゃって」
フェリー乗り場の建物内で、季里と颯真くんの帰りを待つ僕に声をかけてきたのは玲子さんだ。
搭乗口近くのベンチに座っている彼女は、いつの間にか膝の上で眠ってしまっている心音ちゃんの頭を撫でながら問いかけてくる。
「だって、あの子たち…」
そこまで言った玲子さんは、言いづらそうに口を閉ざす。
ただ、なんとなく彼女の言いたいことは察することができた。
「お互い両思いってことなら最初から知ってます。知ってて、好きになっちゃったんだから仕方ないんですよ」
辛くないといえば、嘘になる。
季里が颯真くんのことで悩んでる時だって、僕のことを好きになってくれればいいのにって思ったこともある。
でも…そもそも、僕が好きになったのは颯真くんを一途に想う季里だから。
「充希くん…」
心配そうな表情で、僕を見つめる玲子さんに小さく笑みを浮かべた時。
「…ん?玲子おばちゃん、お兄ちゃんたち戻ってきたの??」
僕等の話し声で起きてしまった心音ちゃんが、眠い目をこすりながら尋ねてきた。