「璃月、ありがとう」
「……失恋パーティー開きます」
「はは、盛大にやってよね」
「最大に煽ってあげます」
「むかつくな、それ」
彼女の瞼がゆっくりと降りていく。瞬きをすれば、一粒だけ零れた涙が、頬をゆっくりと湿らせる。声も出さずに、センパイは泣いた。俺は黙って、そばにいるだけだった。
「まだ眠いよ」
「もう3時間くらい寝たらどうですか」
「放課後になっちゃう」
「気が向いたら、家まで送ってやりますよ」
「それは気を向かせるしかないなあ。色目使っていい?」
「効果ないんでヤメテクダサイ」
「わたしが眠るまで子守歌でも唄ってくれよ、コーハイ」
「……ジャイ○ンの歌とかでもいいですか?」
「なにそれ、聴きたい」
「寝れなくなりますよ」
もうすっかり解け始めてしまっている氷嚢を差し出して、泣き跡が隠れない目尻に押し付けてやれば、「メイク落ちる!」と文句が飛んできた。
泣いてる時点でメイクの保証はないんだから、今は泣き跡が残らない努力が正解だろう。
俺の子守唄を聞くこともなくあっという間に眠りにつく先輩のそばで、言われるがまま大人しくそばにいた。本来の俺なら鼻をつまんで睡眠を阻止してやるところだけど、相手は一応病人なので、俺の優しさが勝った。
危機感ナシにすやすやと眠る彼女は、やっぱり俺のことを意識なんてしていない。
眠るまでそばにいて欲しい、弱いところをさらけだした彼女が俺の手首をつかんだまま眠りにつこうとするから、ちっとも動けないまま。
「……むかつくんすよ全部、俺のこと好きにならないくせに」