人のこと言えねえよ、相手に伝えることもできないくせに、俺に無駄にちょっかいかけて惑わせてんなよ。
素直になれ?こんなまっすぐ誰かを追っている人に対して芽生えた感情を表にして、一番動揺するのは誰かわかっているんだ。
俺にちっとも興味がないこの人のことばっか考えさせられて、振り回されて、はやく振られちまえばいいって、最低なこと考えて。
「わかってるんだよ、全部」
「……」
「遥平くんは、わかってる。わたしが遥平君のこと好きなこともわかってるし、だから結婚したことも言うタイミング考えてくれてたんだってわかってる」
「……」
「わたしが言わないから、遥平くんはわたしに何も言わない。気づかないふりして、先生と生徒のまま、わたしの面倒見てくれてる。わたしは全部、遥平くんの優しさに甘えてるだけ」
「……」
「ここにこれるなら、どれだけ体調が悪くなってもいいやって思う。自分の弱いところを武器にして、何も言わせなかった。先生に心配してもらって、お兄ちゃんみたいに優しくしてもらって、それで十分だったの」
先生と生徒。
その関係でお互い誤魔化し続けて、見えない予防線を張り合って、それがお互いのためだと言い合って。
「嘘つき」
「………」
「じゃあなんで泣いたんだよ、いい加減諦める気になりました?あの人がずっと一途に想い続ける相手に叶わないってわかってたんじゃないですか」
「そうだね、」
「伝えないままやめるんですか。バレバレなのに、振られないまま終わる気ですか」
「振られたら璃月は慰めてくれる?」
「……一人で泣かれるくらいなら、そばで馬鹿にしてあげますよ」
「―――はは、心強いなあ」
だから、少しくらい頼ってください、
嘘偽りなしに、くそかっこ悪い言葉を伝えようと思ったんだ。
クソガキが素直になる見本を見せてやったんだから、正直になればいい。
先輩は俺を見上げて、嬉しそうに笑った。
伸ばされた手がもう一度髪の毛に触れて、今度はあやすように頭を撫でられた。