「……馬鹿じゃん」


誰のせいで泣いてるか、アイツはちゃんとわかってんの?
なにがおめでとうだよ、笑って祝福してるんじゃねえよ。自分だって同じくらい好きだったって伝えてやればいいじゃねえか。期待なんてしていないなら、はやくその気持ちを伝えて終わらせてしまえばいいじゃねえか。


なんで俺がこんなにイライラしてるんだ。
体調が悪いときも、遠慮して一人でどうにかしようとして結局友達や先生に助けられてるんだろ。偉そうに送り届けろとか言うくせに、いつも最後は申し訳なさそうにありがとうって言ってくるところも気を使われてるみたいで嫌だ。

所詮二個下のクソガキでも、あんたに頼られるくらいの余裕はある。泣きたいときくらい、馬鹿にしてやるから少しでも俺のこと頼ってくれればいいのに。




――――もう、降参だ。

どうでもいい奴に触れるのは緊張もしないのに、泣き跡の残る頬に触れるのは無理だった。
毛布から晒されている真っ白な肌は、赤く腫れていた。浦野にもらったであろう溶け切った氷嚢がシーツの上に転がっていた。

氷を入れ替えた。氷の場所は先輩のせいでもう把握しているし、氷を自由にとっていいのは俺の特権だ。
それから新しい氷枕も持って、もう一度眠っている先輩の元にむかう。
どっちが保健委員だよ、俺のほうが保健委員に向いている自信がある。

誰かの世話なんてめんどくさいことやりたくもないし、末っ子だからされる側で生きてきたのに、センパイのためならどうしても身体が勝手に動く。



「……りつき?」

「おはようございます、ひどい寝起きっすね」

「……寝顔見たな、ヘンタイ」

「もうなんでもいいですよ、枕持ってきたんで変えてください」




ぼけっとした寝起きの表情、目をぱちくりさせて俺のことを捉える。
へらり、無気力にあげられた口角をみて、少しだけほっとしたんだ。