その場に俺がいたとしたら、気分が悪くて逃げ出していただろう。嘘くさい二人のやり取りも、うわべばっかりの報告と祝福も、傍から見たら気持ちが悪いのだ。
だから気持ちには応えられない、が隠された報告。
心の底からおめでとうなんて思えない感情の混じった祝福。
どうせ強がって笑顔でおめでとうを伝えたのだろう。それが相手に嘘まみれの笑顔だってバレてることなんてちっとも思っていないのだろう。
本当に馬鹿だ、不憫で、どうしようもないのに、なんで誰にも頼ろうともしないんだろう。
「顔色悪かったから、それ以上話さないでとりあえず寝かせたよ」
「……たぶん、5割先生のせいっすよ」
「今日は暑いし天気良いからな、アームカバーで防げって言ったんだけど。ずっと天気悪かったし身体が対応できなかったんだろうな」
「……いかにも保健の先生みたいなこと言ってんなよ」
「でも俺は保健の先生だよ」
浦野はキャスター付きの椅子から立ち上がる。
デスクの引き出しからまたいくつかのプリントを取り出して白衣を羽織った。
「昼休みの間に戻ってくるからちょっと広瀬の様子見といてくれるか」
「……なんで俺が」
「戻りに学食でテイクアウト弁当買ってきてやるから」
「いいですよ」
「食欲に忠実なガキでよかったよ」
俺は三大欲求で生きてる男だ。空腹でこの場所に直行してきた俺を誰か馬鹿にしてほしい。いや、これはおそらく浦野に馬鹿にされてるんだろうけど。
白衣姿で書類を片手にまとめ、ソファに座ってる俺の頭をポンポンと二回たたく。完全にガキ扱いだ。
「莉子のこと、頼んだぞ」
「……豚カルビ、大盛りで」
「はは、りょーかい」