すたすたと部屋に入り込んでソファに勢いよく座る。正面にあるベッドふたつは空席で、奥のベッドのカーテンだけが閉められている。
下には見覚えのある赤ラインの入った上靴が綺麗に並べられていた。


「……爆睡中?」

「もうかれこれ1時間半は寝てるから起こしてもいいぞ」

「ふうん」

「いま手が離せないからちょっと様子見てくれよ吉野」

「それで起きられたら確実にヘンタイって騒がれるんですけど」

「大丈夫だ、吉野に起こされるのには慣れたって」

「それ、俺に対する嫌味じゃん」



相変わらずデスクに散らばっている資料をのんびり整理している浦野に、それのどこが手放せない仕事だよと心の中で愚痴る。
起こさないと平気で3時間は寝るからな、浦野はカーテンに視線を移す。


「……噂になってますよ」

「な、職員室で先生たちが騒いでっからバレた」

「莉子センパイには言ったんですか」

「まあ、言うより先に言われたけどな」



『なんで一番に教えてくれなかったんですか?私には一番に教えるべきでしょ!』

『浦野先生としてじゃなくて、お前の兄貴の友人として言ったほうが祝福してくれると思って、家行くつもりだったんだよ』

『どの立場でもめちゃくちゃおめでとうって言うんだから、直接よーへーくんから聞きたかったんですけど』

『……うん、ごめんな。彼女と結婚することになったんだ』

『―――うん、おめでとう!浦野先生』