病室にて。
「ただの骨折だから」
「これで何回目?」
先生が、言った。
「8回目」
「よく生きてるわね」
「俺のバイク大丈夫かな?」
「なんの心配してるのよ」
「そうだ。先生。今度、俺につきあってよ」
「どういうこと?」
「バイクでツーリング」
「え!?」
「うそうそ。冗談」
「なーんだ」
「先生」
「なに?」
「患者の中で俺は何番目?」
「え?」
「いや・・・いい」
「変なこと言うのね。あいかわらず」
「あいかわらずか・・・・・・ハハハ・・・」
窓から、風が吹き抜けた。
「先生?」
「なに?」
「俺のこと好き?」
「え?」
「うそうそ。冗談」
「また冗談? 芸がないわね」
「いや・・・本当は・・・」
「本当は?」
「いや・・・なんでもない」
「そう」
西日で、病室がオレンジ色になった。
「じゃ、帰るわね。お大事に」
先生が、言った。
「うん・・・ちょっと待って」
「なんなの?」
「俺だけの主治医になってください」
病室のオレンジ色が、薔薇色になった。