力強い声が胸を震わせ、心の奥のほうから熱いものが込み上げた。私を必要としてくれることが、本当に嬉しい。

 彼からは見えないのに首を横に振る。


「わがままなんかじゃないよ。私もそうしたいって思う」
『花詠……』
「祥がね、ひぐれ屋を継ぐって決心してくれたの。だから、旅館のほうも心配いらないと思う。私にエツを支えられるのかって自信なくしかけてたけど、海外のことを知らないから不安になるんだよね。今度エツが行く国が決まったら私も勉強する」


 弱気になってばかりいないで知識を増やせばいいのだ。その国の言葉も、文化も。そうすれば、外国の友達だってできるかもしれない。


「一緒に努力するよ。ふたりで幸せになるために結婚するんだから」


 もう迷わずに言い切ると、心にかかった雲が消えていく気がした。彼のもとにも繋がっている夜空を見上げれば、綺麗な満月が輝いている。

 すっきりした気分で口元を緩めると、『ありがとう』と温かい声が聞こえてくる。電話の向こうで、彼も微笑んでいるのがわかった。


『今すぐ抱きしめられないのが残念だ』
「ほんとだね」
『……愛してる。花詠』


 甘い言葉が鼓膜を揺らす。すぐそばに彼がいるような心地よさを感じながら、「私も」と返した。