「これから容赦なくしごいていくからな。いつか花詠が出ていってもいいように、お前が引っ張っていくんだぞ」
「おう、任せろ」
「……本当に大丈夫か?」


 祥が軽い返事をするので、父は怪訝そうにしていて思わず笑ってしまった。けれど、父も私が選ぶ道を見守ることにしてくれたようだ。

 離れたとしても、この家族がいなくなるわけじゃない。ずっと味方でいてくれるのだと背中を押された気分で「皆、ありがとう」とお礼を言った。

 その時、膝の上に置いたままだったスマホの着信音が鳴り始める。画面に表示されたエツの名前を見た瞬間、私は飛び跳ねるように立ち上がった。

 エツからの電話だとわかって皆がほっとしたような顔をする。話の内容を聞かれたくはないので、私は急いでテラスへ出た。

 夜風は涼しいものの、身体は熱を持っている。通話をタップして、スマホを耳に当てると同時に口を開いた。


「エツ……!」
『悪い、連絡が遅くなって』


 聞き慣れた声が耳に届いて、息を吐きながら胸を撫で下ろした。姿は見えなくても、声で繋がっているだけで幸せを感じる。