泣いているせいだけじゃなく、恥ずかしくなって両手で顔を覆った。


「そんなに好きだったのに、私たち親が仲が悪かったせいで我慢させてごめんね。これからは自由にしたらいいと思う。後悔したとしても、それが花詠の選んだ人生なのよ」


 母は申し訳なさそうに、そして父のことも諭すように言った。父は考えを巡らせているのか、口を閉ざしたままだ。

 穏やかな沈黙の後、「姉ちゃん」と祥が呼びかける。濡れた頬を拭って顔を上げると、なにかを決意したような真剣な表情の彼がいた。


「俺も、姉ちゃんと悦斗さんを見ていて決めた。ひぐれ屋は俺が継ぐから、そっちの心配はしなくていいよ」


 弟の宣言には皆が驚き、一様に目を丸くする。


「祥……」
「姉ちゃんはずっと俺にやりたいことやらせてくれてたんだから、今度は俺が送り出すべきだろって思ってさ。旅館の仕事が嫌なわけじゃないしね」


 ちょっぴり照れ臭そうに言う祥にじんとする。

 この間、遊園地で会った時になにか言いたそうにしていたのはこのことだったのかもしれない。やっぱりいい弟だ。

 母はみるみる喜びを露わにし、「お父さん、よかったじゃない!」と隣に座る父の腕をバシバシと叩く。安堵と嬉しさが交ざったような顔をしていた父は、表情を引き締めて祥に向き直る。