「あなた……」
「今ならまだ間に合う。もう一度、結婚についてよく考えてみたらどうだ」


 宥める母に構わず、父は依然として厳しい表情でそう言った。重い言葉が胸に刺さり、なにも返せずまつ毛を伏せる。

 父の指摘は極端かもしれないが、決して間違ってもいない。私はそこまで覚悟できていただろうか。


「父さん、まだ引き離そうとしてんの? いい加減に──」
「違う」


 うざったそうに文句をつけようとした祥を、父の強めの声が遮った。


「ふたりを認めていないわけじゃない。そうじゃなくて……ただ、花詠が心配なんだ。この結婚で、将来苦しむことにならないか」


 徐々に弱まっていく声を聞き、私は再び父に目をやる。そこには、葛藤している様子で、娘の幸せを願うひとりの父親としての彼がいた。

 父が私を気にかけるのは、娘として愛されているからだと感じて胸が締めつけられる。石動家との確執はもう関係なくなっているようで、それは嬉しい。あとは、私の気持ちの問題だ。

 夜のニュースではちょうどストラスブールの話に変わり、道路に大量の水が流れる映像が映し出された。倒壊した建物がそのままになっている場所も多く、エツと歩いた街は様変わりしている。