なんとか笑顔でお料理の提供を終えて部屋を出た直後、深いため息を吐き出した。


「エツ……」


 連絡が来ないのは忙しいだけだと思いたい。離れているのがこんなにもどかしいなんて。

 家に帰ってからもまったく落ち着かず、スマホを手元に置いてテレビのニュースばかり見ている。夜十時にもなるとリビングには一家そろっていて、ストラスブールの状況を知って皆浮かない顔になった。

 温かい紅茶を持ってきた母に「悦斗くんから連絡は?」と遠慮がちに問いかけられ、力なく首を横に振った。祥も心配そうに声をかける。


「領事館に電話してみればいいじゃん。いれば代わってくれるでしょ」
「ん……もう少し待って、連絡がなければそうするかも」


 スマホを手に取り、意味なくディスプレイの明かりをつけてみる。今頃向こうは午後二時くらいかなとぼんやり考えていると、難しい顔をした父が「花詠」と呼ぶ。


「外交官の彼と結婚するデメリットのひとつは、こういうつらさが多いことだろう。治安のよくない地域に配属されて花詠もついていくとすれば、お前まで危険な目に遭いかねないし、大使館が襲撃されたというニュースも見る」