その日はラインハルトの邸宅にて大規模な社交界が開かれていた。
 王族も招かれるということもあり、盛大な催し物になっている。

 ラインハルトはこの日の主催者ともあり、珍しくいろんな人への挨拶の対応に追われていた。
 一方、邸宅のエリーゼの自室では、彼女とクルトが衣装合わせをしている。

「き、緊張します」
「大丈夫ですよ、エリーゼ様。とてもお似合いです」

 エリーゼは今までの人生で一番煌びやかであろう衣装を着てソファに座っていた。
 社交界用のそのドレスは、ブロンズの髪がよく映えるワインレッドの大人な雰囲気漂うドレス。
 レースの手袋をした両手で、クルトの両頬を挟み込んで叫ぶ。

「もうっ! こんなドレス初めて着るのでちゃんとふるまえるか心配です」
「だからって僕の頬を手で挟まないでください」
「ご、ごめんなさいっ! 痛かったわよね、つい」

 慌てて手を放してクルトを解放するエリーゼはソファから立ち上がると、今度は慌ただしく室内を歩き回る。
 その様子を見て彼女が安心するように声をかけた。

「胸をお張りください、今日のお披露目が終われば正式にあなた様がラインハルト様の妻です」
「表向きは公爵夫人となるわけで、それだけでもすごいのに裏では【ヴァンパイアの王妃】でしょ? 私に勤まるのかしら」

「大丈夫だよ」

 エリーゼの後ろからドアを開けて入ってきたラインハルトが姿を現す。
 すぐさまクルトは恭しく片膝をついて挨拶をした。

「ラインハルト様」
「エリーゼ、今日から僕の正式な妻になるね」
「はい……」
「緊張することはない、エリーゼに何か辛いことはさせないから安心して」

 ラインハルトはそっとエリーゼを抱き寄せると、頭を優しくなでて緊張を落ち着かせようとする。
 エリーゼもその心地よさにふっと力が抜け、彼に身をゆだねた。

「さあ、行こうか。みんなが待ってる」
「はい」


 今まで誰とも婚約をしなかったグラーツ公爵のいきなりの結婚宣言ということで、今夜は人が特に集まっていた。
 エリーゼはラインハルトに手を引かれて広場の大きな階段を降りると、そこには彼女が見たこともないような貴族たちが大勢いる。

(こんなに人が……。余計に緊張する)

 エリーゼの登場に皆騒ぎたてる。
 それを片手をあげて静止させると、ラインハルトは粛々と話し始めた。

「今夜はお集まりいただきありがとうございます。ここで、我が妻となる女性を紹介いたします」

 ぐっと自身のもとにエリーゼを引き寄せると、ラインハルトは聴衆に向かって宣言する。

「ラインハルト・グラーツは、ここにいるエリーゼ・ランセル嬢を妻とする!」

 その宣言に皆拍手で賛同し、エリーゼへの視線を向ける。
 エリーゼは割れんばかりのその音に驚き、びくりと肩を揺らしてラインハルトをみた。

「大丈夫だよ」

 そっと囁くようにラインハルトはエリーゼに向かって呟く。
 その眩しすぎる光景と歓声にエリーゼは意識が遠のきそうになった。