「っ!」
ガッと急に両肩を掴まれるように手が置かれて、心臓が飛び上がる。はぁはぁと、荒い呼吸が背後で聞こえていた。振り返って家が無い事に絶望したその一瞬。その一瞬で、あれだけあった距離をこの人は詰めたという事……? つまり、この人も普通の人では、無い?
肩を掴まれる手の力は強く、もう逃さないと言わんばかりだった。恐怖でカチカチになって動けない身体を、くるりと反転させられる。強制的に向き合わされたその先、俯き加減のまま肩で息をするその人の、前髪からのぞく上目遣いと目が合った。
——瞬間、ハッとした。その目は綺麗な金色だったから。それにどこか既視感が……あ、そうだ。この金色の目は……っ、
「猫さん……?」
「は?」
「! あ、いや……」
「すみません……」と、自然と謝罪の言葉を溢しながら視線は斜め下へと逃げていった。単語一つに対して返って来た嫌悪感が凄まじかったのだ。とても目を見て向き合ってはいられなかった。どうやら猫さんと間違えられた事が相当その人の心を逆撫でしたらしい……いや、猫さんと間違えた訳ではないんだけど……。