この森では一人になってはいけない。けれどあの家に居れば大丈夫だと説明された記憶がある。だから猫さんは答えられない私を次は家に導いてくれるのだ。自分の行き先は信用出来なくてもそれが家なら大丈夫だろうと、私の気持ちを汲んでくれているのだと思う。

彼に答えられなかった私なのに。そんな私の安全を考えてくれて、ここへ置いて行ったりはしない、それは猫さんの優しさだった。

……このままで良いのだろうか。私は、このままで。


「着いたよ」


靄の中にぼんやりと現れた見覚えのある小さな家は、近づくと変わらず古めかしい。壊れそうな古い扉をそっと開こうとして、一旦止まる。前回はこの部屋から出ると別の場所に繋がっていたけれど……じゃあ、今回は? 入った瞬間に別の場所に繋がってしまったら、またあの子から遠のいてしまう。


「この森にアイツが居るのは間違いじゃない。ただ、このままじゃアイツには会えないんだ」

「……」

「本当だよ。君はまだ本当のアイツを掴めてない。だから君はアイツを見つけられない」

「……本当のあの子を掴む?」


家へ入る一歩が踏み出せない私に、黒猫は言う。“本当のあの子”——その言葉には聞き覚えがあった。