「なんで逃げるのー? お願い通りの存在だろ!」


後ろから掛けられた声が迫り来る恐怖を煽る。距離はある程度ありそうだけど、少しでも気を抜いたら追いつかれるくらいの間隔だろう。怖くて振り返れないから正確には分からない。ただ前に走る事しか出来ない。


「寂しくないよう俺が叶えてあげる! 君はもう一人じゃないよ、だって」

「っ! あぁ……っ、」

「死んでしまえば、何も無くなるだろう?」


慌てて足を止めた。目の前に突如現れたのは——真っ黒な影。

影はゆらゆらと形を変えて人型になると、そこに彼は現れた。つまり、


「あなたが、黒い、影……っ」


少年は、黒い影だった。黒猫が言っていたのは彼の事だった。この目の前に立つ少年が黒い影、捕まったらダメだと言っていたあの……!


「!」


一歩近づいてきた影の少年に、強い力で腕を掴まれる。屈んで私の顔の目の前まで自分の顔を近付けると、彼はもう一度問う。


「ねぇ、どうして欲しい?」


腕が異常な強さで掴まれていて、振り払って逃げ出す事は不可能だった。真っ黒でどろっとした瞳が私の中を覗き込むように見つめくる。早く、早くと急かしてくる。早く言えと、きっとさっきの言葉を待っている。待っている。私を殺そうと、待っている……!


「たっ、」

「?」

「助けて猫さん——!」