「猫さーん、どこー?」

また一人ぼっちに逆戻り。どこかへ連れて行ってくれるつもりだったのなら目的地は近いのかもしれない、なんて思うと無闇に動き回る事も出来なくて、ぽつんと途方にくれていた。立ち込める白い靄が濃くて、辺りの様子が全然分からない。なんだか先程よりも濃くなっている気がする。


「……私、帰れるかなぁ……」


夢の中とはいえ不安で一杯だった。このままずっとここに居る事になったらどうしよう。導いてくれる黒猫の姿もない今、恐怖心がむくむくと育っていく。

と、その時だ。


「!」


どこかで何かの音がして、身体が一本の針金になったみたいにピンとした。怖くてまた駆け出したくなったけれど、ジッと堪えて耳をすます。もしかしたら黒猫の音かもしれないと、私の全神経を耳に集中させた。一体何の音だろう。


「……——っ、……っ」


……多分これは、草とか、風とか、自然の音ではない。


「……ぐすっ、……ずっ」


鼻を啜る音。人が出す音。誰かが泣いている音。