「クロは、淋しくないかい?」



 優しく頭を撫でながら、さくはそう言った。
 僕は、淋しくなんてない。
 さくが、撫でてくれるから。


「そっか」


 撫でながら、さくは言った。
 撫でる手を止めないで
 さくは微笑んで言う。



「じゃあ、私と会う前は?」



 ……わからない。



 いつの間にか追い出されて


 …………わからない。


 いつもお腹が空いていて
 いつも怖い思いをして


 ………………わからない。


 嬉しいも楽しいもなくて


 ……………………わからない。



 痛いと苦しいと
 つらいといやだと
 死にたいと悲しいと


 そんなのばっかりだった
 そんな毎日だった。



 ……だから、わかんないよ。



 ねえ、

 淋しいって、何?
 淋しいって、どんなこと?



「……そうだね」



 困ったように、さくは笑う。
 撫でる手つきはかわらないのに
 なんだか冷たくなっていく。


「なら。泣きたくなった?」


 見上げた。

 月の光が眩しくて
 目を細めた。