靴を脱いでいると、玄関まで迎えにきた彼の大きな身体にギュッと抱きしめられる。その逞しい胸に頬を寄せて背中に手を回す。

「んー、疲れたかも」
「あれ、今日はやけに素直。よっぽど疲れたんだな……なんか嫌なことがあった?」

 彼はよしよしと抱きしめながら唯花の頭を撫でてくれる。
 いつも察しがいい。撫でられる心地よさに心が緩みつい愚痴が出てしまった。

「……だれかさんが経理で私ばっかりに声を掛けるから、女子達の恨みをかっているみたいなんですけど」
 
 唯花はさきほど聞いてしまった愛奈たちの会話を簡単に説明する。自分がけなされた内容は上手く誤魔化しながら。

「経理で一番相談するのに適してるのが唯花さんだろ? 質問するのはあたりまえなんだけど……」
 頭の上で少しバツが悪そうな声が聞こえてくる。

「経理で出会えるレアキャラみたいに言われてたわよ」
「あー、ごめん、俺が悪い。本当は仕事で煮詰まってくると唯花さんの顔を見たくなっちゃって、何かと用事や質問みつけて経理に行ってた」
「やっぱり」
「唯花さんに迷惑を掛けるのは嫌だから今度から気を付ける。ほんとごめん」

 彼は唯花を抱きしめたまま頭に頬をすりつけてくる。何だか大型犬に甘えられている気分になる。