入社2年目くらいまでは眼鏡をかけていたし、服装ももっとダサかった。
 今はコンタクトだし服装も気をつかっているつもりだ。あくまで当人比だが。

「折原さんみたいなハイスペックな人が、あんなの相手する訳ないのにね」

「きっと佐山さん、今まで男と付き合ったことなんてないんじゃない? だから年下の男に頼られて自分に気があるって勘違いしてるのよ」

「うわー、年増の勘違いって惨めねー」

 クスクスと笑い声が聞こえる。

(くっそー、言いたい放題だな)

 さすがに腹が立った唯花はグッと拳を握りしめ一歩踏み出しかけたが思い直す。

 ここで出て行って『私は男性と付き合った経験はあるし、折原君が自分に気があるなんて勘違いしていません』と言ったとて信用されないだろうし、無駄に職場の雰囲気を悪くするのもどうだろう。

(……藪蛇になってもまずいか)

 言わせておけばいい。唯花はそう自分に言い聞かせると黙ってその場を後にした。



「……ただいま」
 唯花が自宅アパートのドアを開けると、部屋の奥からデミグラスソースのいい匂いがしてきた。

「お帰り唯花さん。お疲れさま!」