拾った犬に懐かれてしまったようなものだ。透は自分に妙な憧憬を抱いているだけ。実際付き合えば幻滅してすぐ目が覚めるだろう。
 しかし今でも彼の目は覚めない。むしろ懐き度が増しているような気がする。
 さらにやっかいなのが、今では唯花も透に身も心も奪われてしまっていることだ。

 透の素直な性格、甘えたがりなくせに恋人の世話を焼きたがるところ、ベッドで見せる男の表情、全て唯花の心をキュンとさせてくる。彼と過ごす時間は切なくなるほど幸せだ。

 でも唯花はいつでも透を解放できるようにしておこうと思ってる。それが大人の分別だろう。

 透は今25歳。入社4年目は社会経験をある程度積み、自分がこの先どういうキャリアと人生を選んでいくべきか客観的に考え始める時期だ。結婚だって現実味を帯び始める。

 自分を卑下しているわけではないが、若く将来有望な彼が7つも年上の地味な女を選ぶと思うほど唯花はおめでたくはない。
 彼の出向は半年と聞いているので2ヶ月後には親会社に戻る。その時には透の熱も冷めふたりの関係は終わるだろう。

 出向先で妙な女にひっかかっていたという噂は透の為にならない。
 会社でふたりの関係は知られないようにしなければ。