ということはきっと、私がここで何をしてここでどうするつもりでいるのかもお見通しなのだろう。

 「泊まらせねぇよ」

ズバリ言い当てられ、些細な家出を阻止された私は悔しさに唇を噛み締めた。
すると、頭を掴んでいた手のひらがゆっくり下降し、太くてごつごつした親指が私の下顎に添えられる。
そのまま軽く下へ引かれると、噛み締めていた唇が歯と歯の間からすり抜けていく。
悔しがることさえ阻止され、恨めしげに壱矢を見ると悲しげ顔で「傷付けるな」と言われた。

 「お前が家にいたくないのも、家族とわざと時間作ってないのも全部わかってる。なんでそうしてるのかも何となく想像ついてる。それについてとやかく言うつもりもない。壱が考えて精一杯やってることに文句はない」

違和感や不自然さくらいなら抱いていてもおかしくない、それは自覚していた。
私の態度は極端を越えてあまりにも閉鎖的だから。
けれどその事を口にされてしまうと、恥ずかしさが吹き出してしまう。
相手が気付いていないという体が、いわゆる予防線として効果的に働くのだ。
こんなの空回りすぎて滑稽である。

好きな人に好きだと気付かれてしまった、それに類似したやりづらさなんじゃなかろうか。
経験が無いから知らないけれど。
独りよがりの強がりすぎて、哀れんだ弱い自分が出てきそうだ。
自分でも認めたくない、弱い部分。
無意味に意地をはって家族の和からはみ出した私は、壱矢からすればさぞ面白おかしいだろう。

 「じゃあ放っておいてください」

壱矢から視線を背ける。

 「それは無理」

でも壱矢も追いかけてくる。