痛いはずなのに痛くないのはどうしてなんだろう。
居心地悪いはずなのに、ほっとしているのはどうしてなんだろう。
目まぐるしい気持ちの変化についていけずにいると、壱矢が小さくクスッと笑った。

 「嘘へた」

抱きすくめられていた力が弱まり、代わりに大きな手のひらが頭に乗せられた。
優しい手付きで髪が撫でられる。

 「勉強なんて嘘だろ?」

 「え…」

抱き締められた腕が緩み、今度は目の前に壱矢が顔を寄せてきた。
今まで体験したことがなかった壱矢との距離に戸惑いを隠しきれず、慌てて目を背けた。
しかし壱矢に頭を囚われてしまい、すぐに元の場所まで戻される。
「目ぇ逸らすな」と、結構な不満げ。

 「あんな嘘に騙されるかよ。なめんな。全部確認済み。お前とそんな予定ないって先生言ってたけど?いったいどこのなんの先生?」

まさかバレているなんて思ってもみなくて、てっきりうまく騙せていると思っていた私は、壱矢が教師にそんなことを確認しているなんて考えもしなかった。