「え…先輩?」

目を細めてその姿を確認する。

 「心配させんな…」

駆け寄った壱矢に、いきなり強く、抱き締められた。
いつも使っている柔軟剤の匂いがする。
いつもの自分と同じ、匂いがする。
壱矢の体温、荒い呼吸、力強さにビックリして、息が止まりそうになってしまった。
若干汗が滲んでいるのは、私を探し回ってくれたからだろうか。
耳元で、壱矢の深いため息が落とされる。
心配させんなと言った言葉の通り、ため息には安堵が混ざっていた。

 「なにしてんの?なんで体育着に着替えてんの?」

表情が見えないためどういう顔をしているかはわからないが、声の調子と語気から察するに怒っていることは間違いない。
人に怒りの感情を持たれるのは得意でなく、なんならそれを回避して生きてきたつもりの私としては、こんなあからさまな‘怒’は対処どころかどう受け止めていいか分からなかった。
がちがちに固まった身体は、緊張だけではない理由で身動きが取れない。

 「こ、これは、汗をかいたので、シャワーを浴びました」

 「で?こんな暗いところで先生と勉強?お前先生とどんな勉強してんの?」

ど、どんなって、なにいってんの??
妙な言い回しが不適切さを連想させた。

 「やっ、ちっ、違います。そんなんじゃなくて、その、先生は都合が悪いので待ってたんですがやっぱり無理で、なので…ここで一人で勉強してただけです。もう帰るところでしたしっ」

さらに力が入り、骨が軋む。