「息吹」




騒がしい周りの声に一切反応しなかった息吹が、美聖の声にはっきりと顔を上げた。ステージと同じメイクに衣装姿にダウンコートを羽織っただけの息吹が、そこにいる。



美聖はしっかりと息吹の手を取って、ぐっと自分の方へ抱き寄せる。


そして、息吹の顔が誰にも見られないようにしながら、マスクを取って野次馬たちに笑いかける。





「これから一世一代の告白する予定なので、このことは秘密にしてください。」




美聖の甘い和駄菓子のような、母性本能をくすぐるような笑みに、周りが惚けている間に、美聖は息吹を連れてタクシーへと歩き出す。



ステージ用の衣装で高いヒールの息吹の足が覚束無い。