美聖は不安になってスマホをきつく耳に押し当てて訊ねる。
「どうしたの?なんかあった?」
「走ってるの…!有楽町駅に向かってる!」
「え?」
「タクシー捕まらないからっ」
息吹は息を上げながら言う。その声にはまだ涙の欠片が残っていて、息吹の声を聞くだけで美聖の心臓がひねりあげられたように苦しくなる。
まだ紅白が終わってすぐだ。本来なら帰宅するまでにもっと時間がかかるはずなのに、息吹はその全てを放棄したのだ。
「今日、会場で、ひと席だけ誰も座ってなかった…っ」
「、」
「毎年、ステージからすぐ見つけられる姿が、今年はっ、なかった…」