テレビの画面越しに見る息吹は、やっぱり綺麗で、それでも彼女の涙をすぐに拭えないことにもどかしさが募った。



紅白が終わる。現時刻は23時45分。あと15分で今年が終わる。



美聖は立ち上がると、コートを羽織り、変装用のキャップとマスク、黒縁の伊達眼鏡をかけて家を出る。


タクシーに乗り込み、紅白の会場となっている東京国際フォーラムを行き先として告げる。時間は刻一刻と流れる。


タクシーの運転席脇にあるデジタル時計を気にかけていれば、スマホが震える。


画面を見れば、息吹からで、美聖は慌てるあまりスマホを手から滑り落とす。


後ろの挙動不審さにタクシー運転手が怪訝な視線をバックミラー越しに寄越したのにも、美聖は気が付かない。




「もっ、もしもし?」




何とか着信が切れる前に電話に出た美聖の耳に真っ先に届いたのは、息吹の息を切らした呼吸だった。