「我慢しなくていいんだよ」



息吹が弾かれたように顔を上げる。追憶に耽っていた息吹の瞳が、今、目の前にいる美聖に真っ直ぐと向けられる。


美聖の瞳が瞬きのたびに、そこから小さな雫を落とす。鼻の頭を赤くして、綺麗な顔はいつだって羨ましいほどに素直に想いを表へ覗かせる。



「息吹が選んだ道を寂しく思うファンはいても、息吹のことを我儘だなんて思うファンはいないよ。だって、みんな、息吹が好きでファンになったんだから。……息吹の重度オタクの俺が言うんだから、間違いないよ。」



そう言って泣き笑いする美聖の柔らかな表情に、言葉に、息吹の瞳が揺れる。黒い闇の中に、星屑を集めこんだ瞳が、じわりじわりと、海を溜め込んでゆく。


美聖はマフラーを解くと、息吹の首に自身のマフラーを巻き付ける。目線を合わせたまま、苦しそうに下唇を噛む息吹に笑いかける。