美聖は、遠目でもマスク越しでもわかる。──息吹が嬉しそうに笑った。



「……っ」



美聖の目から大粒の涙が溢れ出す。既にライブで枯れたと思っていたのに、coc9tailのファンであり続けた年数分だけ蓄積された涙はまだまだ体内に貯蔵されているらしかった。



息吹が走ってくる。そして美聖が泣いているのがわかると、目を細めて声を立てて笑った。マスクを顎の下に引き下げながら息吹が言う。




「美聖くん、泣き過ぎだよ」

「だって、……ぐす、」

「待っててくれてありがとう」

「ううん…待たせてくれてありがとう…っ」



息吹は困ったように笑いながら、美聖の顔に細い指先を伸ばす。ライブのために爪先まで綺麗に整えられた息吹の美しさは、スポットライトを浴びてなくても眩い。



ぼろぼろと涙を流す美聖の頬に息吹の指が触れる。夜冷えした美聖の頬は冷たいのに、流れる涙は熱い。