全ての身支度を終えた息吹のスマホに木村から着信が入る。ワンコールで出た息吹に驚きながらも「もうすぐ着きます」と伝えて電話が切れる。



玄関に向かう息吹を美聖も追う。ライブは夜の6時から始まる。coc9tailは先に行ってリハーサルや準備をしなければならない。




「美聖くん、関係者席で観てね」

「……うん。息吹から貰ったチケットで観るよ。俺の分、もうひとりcoc9tailの最期に立ち会えるならなおさら」

「ありがとう。本当にファンの鏡だね」




靴を履き終えた息吹が振り返る。黒のバケットハットを被った息吹が口角を上げている。美聖と目が合うと、息吹は少しだけ緊張したように下唇を舐める。




「美聖くん、ひとつだけワガママ言ってもいい?」

「なんでも聞くよ」



美聖の即答に息吹は楽しそうに笑って、それから、改めて言う。