審査員の発表はおおよそ12月末だ。だが、息吹は美聖が今年も例年通り審査員を断ったのを彼から聞いて知っている。


朝食で使ったお皿をふたりで洗いながら、隣に立つ美聖に言う。




「紅白の審査員、断らなくてもいいのに」

「問答無用でcoc9tailに入れちゃうから」



美聖は間髪入れずに応える。さすが毎年なんの躊躇いもなく審査員を断る男だ。大河ドラマの主演をした時でさえ断った美聖は気迫が違う。


審査員として出れば、演技だけではない、美聖の人柄や朗らかさが、今よりもっと国民に伝わるはずだ。



息吹は手を拭きながら、美聖に笑いかける。今日の息吹は澄んだ湖のように、誰にも邪魔できない美しさがある。




「じゃあ来年からはちゃんと審査員できるね」

「……」




それは来年、coc9tailはいないということだ。

そんなこと言わないでなんて美聖には言えない。代わりに無言で握りしめた拳がやたらと痛かった。