「俺やっぱりファン失格だ」




息吹は自身の心臓の音が美聖へ聞こえてしまわないかと焦る。逃げようとすればするほど、美聖が息吹を抱きしめる腕の力を強める。


苦しいのに逃げてしまいたいのに、その強さに息吹は心のどこかで喜んでしまう。



美聖の熱い吐息が、息吹の赤くなった耳に触れて、その赤がさらに深まる。




「息吹さんの今の顔、誰にも見せたくない」




監督の「カット」の声が入ったあと、美聖は着ていたジャケットを息吹の頭から掛け、スタッフが総じて首を傾げる中、息吹は逃げるようにスタジオを去った。