まだカメラは回り続けている。ふたりのシーンはただ見つめ合って、曲のクライマックスに向かう最中で、微笑み合うだけだ。



だが、今、息吹は耳まで赤くしたまま視線を下に落としてしまっている。長い睫毛が羞恥と焦燥から微かに震えている。



そんな息吹を見て、美聖の身体は思考するより先に動いていた。




「……息吹さんごめん」




そう呟いて美聖が息吹を抱きしめる。



スタッフたちから動揺の声が上がる。カメラマンが予想外のふたりの動きに、監督を見て指示を仰ぐ。



が、監督は無言のままふたりの姿を見つめ、人差し指でカメラを回し続けろと指示を出す。



カメラが回り続ける中、我に返った息吹が慌てて「美聖くん」と消え入りそうな声で呟く。美聖はそんな息吹の顔を隠すように自分の胸の内に抱き寄せたまま。



そっと、頭を垂れるように息吹の耳元に唇を寄せて、互いにしか聞こえないような声で囁く。