顔を上げた先でぶつかる美聖の視線があまりにも柔らかくて、息吹の心が再び乱れる。




「ありがとう」




美聖は優しい眼差しのまま息吹に告げる。セットされた髪もシワひとつないブランドのスーツも、美聖だからこそ似合う。




「俺をこの世界に留めさせてくれてありがとう」

「……」

「息吹さんがいたから、今の俺がいる」




真っ直ぐな言葉が息吹の身体の心に響く。過去の記憶が走馬灯のように息吹の中を駆け巡る。


デビュー前、もどかしい日々の中、未来が見えない中、ひたすら自分を信じて泣きながら練習して、挫けそうになった毎日。


デビューしても多忙過ぎて睡眠時間は削ぎ落とされ、ベストとは言えないコンディションでもアイドルとして完璧で居続ける苦しさ。coc9tailという存在が大きくなる度に重く伸し掛るプレッシャー。ファンの笑顔。メンバーの笑顔。



美聖が笑う。熱いほどのスポットライトよりも穏やかで緩やかなのに、息吹の身体の内側はその笑顔に当てられて確実に火照ってゆく。