真剣なのにどこか泣きそうで、酷く優しいのに微かな激情を孕んでいて、甘いのに苦い。そんな複雑な感情が美聖の表情ひとつから息吹へと伝わってくる。




「───カット!いいね、素晴らしい」




監督の声でようやく息吹は我に返る。息吹の手を離した美聖は先程までの既に柊 美聖へと戻ってにこにことしている。



息吹は美聖に掴まれていた手首を、そっと手で抑える。




「(こんなの、初めてだ……)」




自分が何者かに押し負けるなんて。乱れた心を正す前に撮影は進む。窓枠越しだった美聖が息吹の目の前にいる。



カメラワークの調整をしている間、ふたりは撮影の位置に立ったまま待機する。




「息吹さん」

「、はい」




突然美聖の声を掛けられ、まだ戸惑いを正せていなかった息吹はワンテンポ遅れて美聖を見上げる。