息吹は今までどれくらいこの暗い闇に全身を覆われただろう。一歩一歩、真っ暗な、不確定な未来へと近づく恐怖。
今の美聖から俳優を取り上げたら何も残らない。傍から見ればそんなことはないと言えることも、自分自身ではお先が真っ暗に思える夜もある。
美聖の腕を掴む息吹の手を、自身の手で静かに引き剥がす。息吹の顔がにわかに歪む。
『(そんな顔、しないで)』
そうして美聖は改めて、息吹の手を自身の手で力強く包み込む。
『危ないなら、なおさら一緒にいるよ』
息吹の闇を包み込むように、美聖は優しく微笑んだ。
美聖の微笑みに、言葉に、瞳の奥に濁りを見せていた息吹の表情が、ゆったりと綻んだ。