美聖の記憶が引き潮のようにあの夜へと戻される。
──……あの日、去り際の息吹の言葉が美聖の耳の奥にべったりとこびりついて離れない。
『私と美聖くんが結婚する可能性は、今のところ0だよ』
薄暗いエントランスの中、息吹の潜められた声はいつもよりも低い。息吹の言葉に、美聖の動きが思わず止まる。
それに反して、息吹のほっそりとした手が美聖の腕へと伸びる。
『私は"coc9tailの黛 息吹"だから』
息吹の手が、美聖の腕を掴む。
突き放すような強気な言葉と、縋るような弱々しい手が相反していて、彼女の孤独を物語る。