普段の息吹なら、「気持ちだけ」と前置きをつけて断っていた。

それなのに、美聖の柔らかな空気に触れると、「ありがとう」と受け入れる言葉の方が先行してしまう。


美聖は息吹の襟元を見ると「あ」と零す。




「髪が、」

「え?」

「ちょっとごめんね」



美聖はそう言って、コートの前側を両手で抑える息吹に代わって、彼女の髪と首裏の間に両手を滑り込ませ、手の甲に髪を乗せて、優しく押し出す。



するりと、コートの下に埋もれていた息吹の黒い髪が外へ流れ出る。美聖は女性が胸をときめかせる行為を何の躊躇いもなくやってのけるのだ。



息吹は複雑な心情がそのまま表情に現れる。