普段、美聖は片平や他の者と電話をしている時は、通話をスピーカーにして他の作業をしながら話すのに、今は何も手が付けられない。


息吹の声だけに、浸る。


美聖の暮らすマンションの一室には彼しかいないのに、それでもスピーカーにするのは、気が引ける。もったいないと感じてしまう。




〈美聖くん、明日のスケジュールどんな感じになってます?〉

「明日?明日は、朝は生放送で映画番宣3本と昼の間は少し時間空いて、夜は映画の公開記念の舞台挨拶に、その後は確か、CM撮影があります」

〈忙しいね。さすが国民の王子〉

「息吹さんのおかげです」

〈(また会話の通信が変な電波を拾った)〉



息吹と出会わなければ俳優になることもなかった、という美聖の思考回路故の発言なのだが、息吹からしてみれば意味不明である。