〈あれ、美聖くんだよね?もしもし〉

「はい!ムーンプロダクション所属の柊 美聖です。よろしくお願いいたします」

〈オーディション?〉



くすくす、と息吹の笑い声が電話越しに美聖の鼓膜を優しく撫でる。


その優しい音が、美聖の胸をくすぐる。むず痒いのに、ずっとこうしていたい。美聖の口元が自然と口角を上げる。




〈ムーンプロダクション所属、ガールズグループcoc9tailの黛 息吹です。よろしくお願いいたします〉

「合格です。最高です」

〈まだ挨拶しかしてないのに?〉

「神に挨拶してもらえたんですよ?」

〈(また会話が成立できてない)〉




真剣な美聖に、息吹が楽しそうに笑う。


電話越しに聞く息吹の声は、画面越しやマイク越しで聞く声よりも、少しだけ果実の甘酸っぱさを付け足したような音がする。