ふ、と視線を斜め下に移し、子供のように呟く。




「……息吹さんにだけですよ。息吹さんだから。」




美聖がその言葉を告げた次の瞬間、息吹が勢いよく椅子から立ち上がる。




「息吹さん?」




美聖が驚きで見上げた先、息吹はそっぽを向いたままやたらと早口な言葉を放つ。




「私もう行かなきゃ。080-1224──」

「え?」

「覚えました?今の私の番号なので、後で電話ください」

「あ、は、はい!」



美聖は俳優でよかったと改めて思った。今まで鍛えた記憶力はこの日のためにあったのだと、馬鹿なことを割と本気で思った。