何の前触れもなく息吹の細く冷たい手が、美聖の顔を包み込む。


美聖は、反射的に彼女を見るも、声は驚きで出ない。心臓は跳ね上がる。




「…い、ぶきさん、?」




なんとか絞り出した美聖の声は、おそらく息吹には届いていない。


彼女は、憂いを帯びたように潤んだ瞳で、美聖を見ている。が、その瞳は、美聖越しにもっと奥深く、その先を見据えている。



冬の明朝のように透き通るような息吹の儚い美しさに、美聖は思わず息を飲む。



息吹は美聖の頬を優しく包み込んだまま、呟いた。





「ねぇ、"ファンの一線を越える"ってどういうこと?」

「えっ?あ、えっと、」




勢いで告げた言葉に、美聖は今更ながら慌てる。あの時咄嗟に出てきた言葉に嘘はないけれど、だからといって、息吹を困らせたいわけじゃない。